novel

No.12 ShowTime〜夢幻のごとく1号〜

 パイオニア2は船団の総称である。
 母船には総督府と関連施設が搭載され、他の船には住居区など様々な施設が用意されている。これらは転送装置などで繋がっているため、宇宙空間にありながら自由に行き来が可能なのだ。
 ただ一つ、軍部区を除いて。
 総督府は総督タイレルの意向もあり、「開かれた政治」を目指している。そのため、ほとんどの総督府機関は民間人の出入りを制限していない。これは民間人にとってとても好評だが、一部の人間に不評でもある。
 本星10カ国同盟直属の母星政府関係の人間達に、だ。
 パイオニア2総督府は、母星政府から独立した政治を行っているものの、無関係ではない。というより、母星政府の人間が抜擢され総督府として働いていると言った方が正しい。もちろん、総督府へ異動せず、あくまで母星政府として総督府を監視する者もいる。そういった者たちは、タイレルの政治方針を表向き反対することはないものの、裏で忌々しく思っている。
 なぜ母星政府の人間は、総督府の方針を嫌うのか?
 理由は簡単である。公に出来ない事柄が多すぎるからだ。
 そのため、母星政府は唯一表だって内部公開が許されていない軍部区へと逃げ込む形となった。
 タイレルとしては、軍部区も公開したいところなのだが、軍は総督府の管轄ではなく、母星政府の管轄なのだ。その為、軍部区は総督府の治外法権となっている。
 このことが、パイオニア2で「二つの政府」を生み出してしまう結果となった。
 むろん、互いにこのことは否定している。表向きは。
 しかし裏では今、ラグオルの主導権を巡って二つの政府が水面下で激しく争っている。総督府はハンターズギルドという機関を使い、母星政府は元から癒着のあった軍という機関を使い。
 この事情を知っている者ならば、ハンターズに籍を置く者と政府の高官がラウンジで密会しているなどとはにわかには信じられないだろう。
 だが現に、二人は密会していた。
「それで、生物遺伝子研究所の方はどうなった?」
 ハンター側のレイキャストが、政府高官にぶしつけな質問をする。こんな光景は普通に考えればあり得ないだろう。民間人が政府高官に質問するだけでも、選挙時のキャンペーン期間でもなければあり得ないことを、ハンターがするとは・・・。もっとも、この二人ならあり得るのだ。
「ドクターDの単独犯ということで、早急に片づけたようだ。まぁ予想通りだがな」
 本来門外不出であるはずの捜査報告書を、ポンと軽く投げてよこす。その報告書データを手早くコピーし、自分の体内に内蔵されているデータベースへと転送する。まるで優等生の宿題を書き写すかのように。そう、この二人はさながら学友同士のようなものなのだ。元軍人のBAZZと元軍人のレオは。
「ふむ・・・総督府保安部が同じ総督府管轄の研究所を調査しきれんとはな・・・クリスの悔しがる姿が手に取るようにわかるな」
 生物遺伝子研究所で研究を行っていた博士、ドクターDは、自らの研究をラグオルの原生生物で不法に実験し、結果ラグオルの森林地区に大火災を発生させてしまうという失態をしでかした。この件でBAZZはこのドクターDを保安部代行として逮捕した経緯があった。その後の「裏」事情を聞くのが今回の密会目的だったのだ。
「いや、クリス君はよくやったさ。なんでも、研究所と軍との繋がりをある程度調査できたらしい。そっちに関する詳しいことは、俺よりはES君を通して総督本人から聞いた方が早いな」
 レオは母星政府側の高官だ。総督府のことに関してはやはり総督本人の方が詳しいのは当たり前だ。今回レオがBAZZへと手渡した報告書は、母星政府内でのものだ。つまり「研究所が総督府に目をつけられた。気をつけろ」という裏報告書なのだ。
「前にも伝えたが、軍内部にも同様の研究所が存在している。現在俺の手の者がそちらを調査中だが、どうやら総督府の研究所にもあれこれと手を出しているようでな・・・下手をすると乗っ取られかねん。言うまでもないだろうが、監視は十分にな」
 わかっている、と首だけの動作で意志を伝える。
「こちらも独自の研究員を確保できたんでな・・・いや、本人のことを考えれば喜ばしいことではないのだが、正直俺たちにとっては研究所への大きな足がかりが出来て助かっている」
 表情には表れないが・・・いや、アンドロイド故心の葛藤が表に出てこないだけなのだが、BAZZは複雑な心境下にあった。
 BAZZ達ダークサーティーンに協力することとなった元遺伝子研究所の助手、アリシア。彼女は自らの信念を貫くために研究所を辞め独立。現在はES達の資金援助を得て、個人で研究を進めている。BAZZ達にとっては思いがけない協力者の出現を歓迎しているが、アリシア本人の心情を考えればこの経緯を手放しで喜ぶわけにはいかないだろう。
「最近ではフリーのジャーナリストまで確保したそうじゃないか。先日のトップ記事、見応えがあったぞ」
 軽く笑いながら、ジャーナリスト、ノルの記事を批評した。いや、ノルの記事を批評したと言うよりは、自らの手でハンターへ送り出した部下DOMINOと、戦友BAZZの活躍を評価しているのだ。
「どうだ? 自分の部下がアイドルになった気分は?」
 ラグオルの大火災時に、BAZZとDOMINOは人命救助に奮闘した。そのことが記事となり、直接被災者の看護などをしていたDOMINOは「バーニングレンジャー」の名で多くの人々から注目されるようになった。本来記事はHONのみに掲載されたものだったが、被災者から口伝えで噂が広まり、今では一般のオンラインニュースにまで取り上げられ、さながらアイドルのような扱いとなっている。娯楽が少ない船内生活を強いられている一般市民にとっては、格好の「娯楽対象」となっているようだ。
「まだまだだな。それはお前が一番わかっているだろう? マネージャー殿」
 DOMINOはBAZZの指導の甲斐あって、急成長をとげている。だが、それは新米にしては、という事であり、いついかなる時にどのような事が起こりえるか予測できないハンター家業を続けるには、不安材料がまだ多いのも確かだ。もっとも、彼女は本来軍人であり、ハンターとして生計を立てていくつもりはないのだが。
「ああそうだ。そのアイドルとマネージャーに、スポンサーである俺が新しいステージを用意したんだが・・・親衛隊のES君も交えて、このステージに立ってみる気はないか?」
 スポンサーの本題は、実はこれからだったようだ。

「このステージ、客の目は相当厳しいわね・・・」
 スポンサーからの依頼を、「そのまま」メンバーに伝えたBAZZ。ESはその報告をこう評価した。そしてDOMINOは、あこがれのスポンサー様からアイドル扱いされて・・・いや、むろんレオなりのシャレなのだが・・・少々舞い上がっているようだ。
「大量に発生し続けるエネミーの完全駆除。どれほどの歓迎ぶりかは蓋を開けてみないとわからない・・・たしかに、軍には荷が重いステージになりそうだな」
 軍に荷が重いというよりは、予測できない被害を出したくないと言うのが本音だろう。
「敵の数が予測できないのは困りましたわね。ここはZER0さんにも協力をお願いした方がよろしいのではなくて?」
 ZER0はメンバーには入っていないため、今回の作戦会議には招集されていなかった。もっとも、毎回招集はしていないのだが、どこからかかぎつけたZER0は、必ずと言って良いほどこういった作戦会議には出席していた。それが当たり前のようになっていたため、Mの指摘で他のメンバーが初めてこの場にZER0がいないことに気が付くほどだった。
「そうね。今回は人数かが多いに越したことはないし。M、悪いけどZER0へ連絡をお願い」
 ESの指示に従い、BEE端末から連絡を入れようとしたその時だった。作戦会議の場となっていたESの部屋に来客が訪れた。
 ジャーナリストのノルである。
「いらっしゃいノル。ZER0ならここにはいないけど?」
 ノルは取材を兼ねた依頼を、ZER0に託すことが多かった。それ以前に、二人は個人的なつき合いが多くなっていたため、ノルの用事は決まってZER0がらみの物がほとんどである。それを良く知っていたため、相手から用件を聞く前に返答してしまったのだが・・・。
「いえ、あいつにも用事があったのは確かなんですけど、まずはESさん達にと思って・・・」
 いいながら、自分の持っていたノートパソコンを広げ、ギルドに入ったばかりの依頼一覧を表示した。
「この依頼なんですが・・・怪しいと思いませんか?」
 ノルが指摘した依頼は、グラン・スコール号という旅客機の探索だった。
「爆破前に旅行代理店が遊覧船を? ・・・偽装する気があるのかね、この依頼人」
 あまりにも怪しい依頼内容に、全員が疑った。それほどに不自然で怪しい依頼なのだ。
「何かあるのは間違いないと思うんですよ。ESさん達が欲しがっている情報があるかも知れないと思って・・・どうかしましたか?」
 情報提供者は、相手の反応が少々鈍いことに不安を覚えた。無理もない。ES達はこれから別件の仕事をしようというところだったのだ。そこに新しい情報が手に入るチャンスを知らされては、渋い顔にもなるというものだ。
「参ったわね・・・レオの依頼もすぐに取りかからなければならない状況で・・・こっちも気になるしね・・・」
 レオの依頼を考えれば、人数を二分するわけには行かないだろう。かといってノルが知らせてくれた依頼も、状況から考えれば人数をそれなりに割れ当てなければ情報収集が難しそうだ。
 難しい選択を迫られた。だが、それを一言であっさりと解決してしまってた。
「こっちはZER0に任せたらどうだ? あれなら、一人でなんとかするだろう」
 という、BAZZの一言で。
「・・・それが最善の策だと私も同意します」
 Mの後押しもあり、ZER0のいないところでZER0の任務が決定した。メンバーではないにもかかわらず。
「わかりました。ZER0には私から伝えておきます。みなさんも気をつけてくださいね」
 手早くノートパソコンをしまい、ノルは部屋を後にした。
「よし、それじゃあ私達も準備を。今回は敵の数が予測できない以上、あらゆる装備を準備しておいて。特にメイトとフルイドは各自持てるだけ用意して。BAZZもフルイドの準備を」
 ESの号令で、各自が準備に取りかかる。
「あの、隊長・・・」
 そんな中、DOMINOがBAZZに声をかけた。
「どうしてZER0さん一人で大丈夫だと判断を? 失礼ですが、彼は探索任務には適していないと思うのですが・・・」
 たしかに、ZER0は推理と洞察を必要とする探索には向いていない。だがBAZZは、というよりはつき合いの長い他のダークサーティーンメンバーは、ZER0の飛び抜けた能力を様々な意味で評価していた。
「あいつの勘と運だけは人一倍だからな」

 ステージに立つまでの道のりですら、そう安易なものではない。だがやはり、一番大変なのはステージでの本番だ。
「このワープの先からが本番だよ・・・準備はいいね?」
 各々が無言で返事を返す。表情には決意が現れていた。が、一名ほど、その決意に恐れと緊張の色も含まれていた。
「DOMINO、無理はするなよ。己の実力を見極め、引くことも重要なことだ。なにも観客に無理して愛嬌を振りまく必要はない」
 言うだけ言うと、マネージャーは一人先にワープ装置へと足を踏み入れた。
「緊張するのは悪くないけど、何事もしすぎは良くないわよ」
 ポンと背中を叩き、チームリーダーが続いてワープを通る。
「恐れを無理に押しとどめる必要はありませんよ。恐れは時に冷静な判断へ繋がることもありますわ」
 鎌を持った死神は、天使のような笑顔で励まし、皆に続いた。
「・・・やっぱり、私ってまだ頼りないのかなぁ・・・・・・」
 助言とは、必ずしも全てが伝わり理解されるものでもないらしい。

 激戦は予測していた。だが、見通しはどうやら甘かったようだ。
 一度に現れる敵の数が半端ではない。
 今までならば、多くても6匹程度のエネミーが同時に襲いかかってきた。だがここでは、その倍の数が途切れることなく迫ってきた。
 休む間もなく、という言葉そのままに、次から次へと現れては倒され、また次が現れ・・・を繰り返していた。
「少し離れろ! コンフュージョントラップを仕掛ける!」
 わざと敵を引きつけ、トラップを設置し、場を離れる。
 Booom!
 爆音と共にエネミーの精神神経を刺激し混乱させる。興奮仕切っていた原生生物たちは、その高揚した感情を刺激され、近くの者をただ闇雲に攻撃するようになっていた。それはつまり、同士討ちを誘う結果となる。
「Mは回復と補助に専念を。DOMINOはハンドガンで牽制! BAZZ、トラップの数は?」
 隙を作り、体勢を整える。途切れることのない敵の来訪の中で、ホンの一時の隙を生み出すことが重要な休息を生む。
「まだどれも余裕がある。定期的にフリーズとコンフューズを設置するぞ」
 敵の数が予測できない以上、無駄な使用は控えるべきだ。だが、温存しすぎて使わなければそれこそトラップが無駄になる。
 適度な使用。この判断は通常の戦闘でも難しい。この混戦状況ではなおさらだ。だがそこは「機神」と呼ばれた百戦錬磨の英雄。メンバーの状況と敵を的確に見極め、コンフューズとフリーズを見事に使い分けている。
「いやぁっ!」
 Swooosh!!
 死神の鎌が空を切り、魂を刈り取る。激戦は既に予測済みであったため、Mは初めから「死神」として鎌を手にしていた。だが戦闘にばかり気をとられるわけには行かなかった。
「くっ!」
 ESが敵の攻撃を捌ききれなくなり傷を負う。さしもの黒の爪牙ですら、この数ではあっさりと囲まれてしまう。
RESTA!」
 だが、そこに不安はない。Mの的確な回復があることを信用しているから。
 しかし反面、Mは周囲に気を配らなければならず、攻撃に専念できない。下手なハンターよりも接近戦に強いMではあるが、彼女がハンターのように太刀振る舞うことは難しい。死神である前に、彼女はフォースとして,黒魔術師としての役目を最優先しなければならないのだ。
「こっのぉ!」
 Blam!Blam!Blam!!
 そんなMをDOMINOが援護する。テクニックを使用する際に生じる隙をつかれぬよう、近づくエネミーに銃弾を浴びせる。彼女自身の攻撃力と使用しているレイガンの攻撃力がさして高くはないため、致命傷を負わせることは難しい。しかし足止めをするには十分な威力がある。
 GROARR!!
 Mに迫っていた狂暴なアナグマは、予期せぬ攻撃にたじろぐ。隙をつこうと襲いかかったが逆に隙を作ってしまう。
「はっ!」
 左手で仲間の命を救いだした黒魔術師は、右手に持っていた鎌を両手で構え、死神として敵の命を絶った。
 Booom!
 フリーズトラップが発動し、瞬く間に氷像をいくつも生み出す。その一角を切り崩し、ESが囲まれた芸術品の中から切り抜ける。
「DOMINO後ろ!」
 はい出たESが見た光景は、今まさに地面から3匹の巨大な亀がはい出る姿だった。
 慌てて振り向いたDOMINOは、普通の亀にはあるまじき光景・・・腕を振り上げて咆哮する亀を目撃した。
 Swish! Swiiish!!
 そして、素早く駆けつけたESの爪牙が敵を切り裂く光景を続けて目撃することになった。
「まだ湧くのかい・・・」
 BAZZが氷像を打ち壊した音を確認し振り向いたESは、上空からエネミーの「元」が舞い降りる姿を見守っていた。舌打ちをしながら。

 BEEに連絡が入ったのは、盛大になりすぎた会場から、エネミーという客を全て排除しきってから程なくした頃。
『ES! やっと許可が下りたわよ!』
 声の主は総督の秘書でありESの友人であるアイリーンだった。興奮したいる友とは対照的に、ESは疲れ切った声で通話に応答した。
「許可って?」
 普段ならば、許可というキーワードと、連絡者がアイリーンであることから即座に推測出来ただろう。だが、疲れ切ったESに、今そのような判断力はなかった。
『調査よ! 探索よ! たった今政府から空洞奥の調査再開許可が下りたわ』
 軍ではなく政府から許可が下りたという事実が、一人肉体的疲労の無かったBAZZの推理を導いた。
(そういうことか・・・レオめ、やってくれる)
 軍では一向に調査が進まず、エネミーに対して無力であること。そしてハンターズ達のみが現状エネミーに対抗できる戦力であること。それを内外に示すには、実績を見せつける必要がある。今回の大量のエネミー駆除は、それを見せつけるには十分なステージとなっていたのだ。
 つまりレオは、初めからこれを狙っていたのだ。もちろん政府連中には、いかにハンター達が「利用」出来るかといった形でカモフラージュし、許可を下ろさせたのだろうが。
(・・・となると、急いだ方がいいな・・・・・・)
 政府と軍は、ハンターズを利用しようとしている。となれば、総督府がある程度抵抗してくれるだろうが、また途中で調査をうち切られる可能性も十分にある。
「一旦船に戻って補給をすませよう。俺のトラップもそうだが、手持ちの回復材も心許ない」
 これはつまり、このまま空洞奥への調査を進める提案をしているのだ。
「・・・・・・そうね。このままじゃアイテムより体が持たないわ」
 と、遠回しにESも提案に賛同した。
 レスタなどの回復で肉体的な傷は完治している。だが肉体的な疲労までは拭いきれない。そしてその疲れは精神面をも疲れさせる。精神面の疲れは適切な判断力を奪う。肉体的な疲れを感じないアンドロイドのBAZZに、今は判断をゆだねた方が得策だろう。
「ZER0さんの調査も、そろそろ終わっているかしら?」
 すこし鎌にもたれかかりながら、Mが別件調査をしているZER0の名を口にした。今後のことを考えれば、やはりZER0の助力は必要不可欠だろう。
「・・・とりあえず戻るわよ。連絡は後で」
 Mがリューカーで造り出したワープホールを潜りながら、ESは疲労に反して心がはやり始めているのを実感していた。
(リコ・・・)

『お、ES。ちょうどいいや。今怪しい依頼を終えてきたところなんだが、ちょっと面白いネタが手に入ったぜ。報告書まとめるの面倒だから、ベッドの中ででも・・・』
 ZER0の戯言を聞き流し、ESは用件だけを伝える。
「大至急「あの」空洞まで。調査を再開するわよ」
 それだけを伝え、BEEを切った。
「もうちょっと、言いようがあると思うのですけれど・・・」
 相変わらずの対応に、さすがにMもZER0に同情する。
「あれはいいの。それより、私達も急ぐわよ」
 手早く準備をすませ、再び転送装置へと足を向ける。
「ZER0は確保できたのか?」
 トラップ補給を終え合流してきたBAZZが、開口一番ESに訪ねた。
「ええ。空洞で落ち合うよう連絡を入れたわ」
 あの連絡だけで、ZER0がどこまで理解できたかはいささか不安だが、そこはZER0のストーカー能力でどうにかなる・・・のかもしれない。
「そうか。ならDOMINOを一旦パーティーから外したいんだがかまわないか?」
「え? なにか怪我でも?」

 DOMINOはダークサーティーンのメンバーだが、元々はレオが派遣したスパイだ。ハンターとしての情報をDOMINOがレオに伝える事を役割としているのも含め了承している。そのDOMINOが最も重要であろう空洞奥の生情報を得られる機会をみすみす逃そうというのだから・・・何かあったのかと勘ぐるのは自然だろう。しかし、事情は多少違っていた
「いや、レオに使いとして出向いてもらおうと思ってな。今奴から連絡があって、俺が頼んでいた武器を調達できたらしい。それを取りに行ってもらおうと思う」
 確かに強力な武器はそのまま戦力になる。だが、どんな武器も頭数にはかなわないのが常識だ。それがわからないBAZZではない。それでも使いを出すと言っているのだ。おそらくはその武器でBAZZの戦略が変わるほど重要なものだろう事がESには理解できた。
「OK。でもレオへの連絡はどうするの?」
「映像記録を提出するさ。元々総督にも提出するつもりで録画準備はすませてあったからな」

 コンコン、と自分の目を軽く叩きながら答えた。
「準備万端ね・・・」
 記録を残すことにまで頭が回らなかった。最近、冷静な判断をしようと心がけてはいるものの、どこかボロが出ている。それを自覚しているだけに、辛い。
「気にするな。足りないところを補うのがチームだろ? そう言って俺を引っ張り込んだのはお前自身だ」
 BAZZは軍で小隊長を勤めていた。その為ハンターとして再出発する際に、チームリーダーとして新たにチームを立ち上げてもおかしくないだけの実力と威厳があった。だが、彼はダークサーティーンに入隊することを選んだ。それはESの勧誘があったからのようだが・・・。
「リコを心配するのは当たり前の感情だ。無理して感情を押し殺す必要はない。俺にもそうだが、少しは自分の相棒を頼っても良いだろう」
 鉄を駆けめぐる思考回路が、熱く語る。そしてそのまま転送装置へと向かっていった。
「相変わらず・・・あいつが本当にアンドロイドかって疑いたくなるわ」
 苦笑しながら、おそらくは照れているだろう背中を見送り呟いた。
「行きましょうか。ZER0さんも、もう向こうで待っているかもしれませんし」
 相棒は笑顔で促した。
「きっとリコさんは無事ですわよ。あなたがそれを信じてさえいれば、私達は助力をなんら惜しむことはございませんわ」
 リーダーの頬に熱い「約束」をし、先を急ぐように転送装置へと歩いていった。
「やるようになったわね、あの娘も」
 頬に残された「約束」の感触を手で覆いながら、二人に続いて行った。褐色の肌をすこし赤らめながら。

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