ハルピュイア

基本的に、来客はもてなすのが館の主としての務め。とはいえ、来客によっては気が重くなる事もある。「あらかじめ、カーペットを取り替えておきますね」おそらく俺以上に気を重くしているシルキー。溜息をつきながら、来客をもてなすには少々質素なカーペットを手に食道へとやってきた。俺は苦笑しつつ彼女を手伝った。「悪い子達じゃないんですけどねぇ」取り替え終えたところで、またシルキーは溜息をついた。
本日の来客は、ハルピュイアイ三姉妹。既に館には到着しており、腹が減ったと別室で騒いでいる。彼女達は不意に、それこそ気まぐれな風のように訪れては、食事を食い散らかして帰っていく。そう、食い散らかすのだ。「テーブルマナーを守れ、なんて不粋な事を言うつもりはありませんけどね……もう少し、ええ本当にもう少しだけ、大人しく食べて貰えないのかしらね」これからここで行われるであろう「惨劇」を予測しながら、シルキーの溜息は止まらない。
女性の胸と頭を持つが、その他はハゲタカの身体を持つ三姉妹。彼女達は腕の代わりに翼を持つ為、ナイフもフォークも持つ事が出来ない。その為食事の取り方は鋭い爪を持つ脚で食べ物をがしっと掴み、それを口へ運ぶ。あるいは直接口だけで食べるといったやり方になる。これではテーブルマナーだの言ってはいられないだろう。加えて、彼女達は食事に関してはかなり貪欲な為、とにかくガツガツと手当たり次第に口へと運ぶ。結果、彼女達の美しい翼も胸元も、そしてテーブルもカーペットも、肉汁やソースが飛び散りでろでろに汚れてしまうのだ。「作り手としては、美味しそうに食べて貰えるのは嬉しいんですけどね……」同じような事を、前にニスロクも漏らしていた。「彼女達を前にしては、飾り付けというスパイスも無意味だな」とも言っていたっけ。
「さて……では料理を運ぶか。もう出来てるんだろ?」シルキーは黙って頷いた。気は重いものの、歓迎する気持ちに偽りはない。彼女は腕によりをかけ随分と豪勢な食事を用意していた様子。俺もまだ今日の夕食は口にしていないので楽しみだ。俺達二人は気を取り直し食事を取りにキッチンへと向かった。
「あ、ごめん。待ちきれなくってさ」キッチンで目にしたのは、既に食い散らかされた料理と、口も胸も羽根もびたびたに汚した三人の来客。「相変わらず美味しいね。これ、香草焼きでしょ?」器用に脚で鳥の太股肉を掴みガツガツ食べながら話しかけてきたのは長女のアエロー。「お、美味そうなチーズ発見! いっただっきまーす」勝手に冷蔵庫を開け、中からどんどん食材を掘り出しているのは次女のケライノー。「ねぇねぇ、二人とも飲むぅ?」来客用ワインセラーの周りはいくつもの瓶とコルクが散乱し、その中央にいる末女オキュペティーが俺達にワインを勧めてきた。二の句も告げぬまま、俺達二人は軽いめまいに襲われていた。

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